Case Study 事例紹介

限られた時間と予算でも「諦めない」部分リノベ

K様邸(東京都中央区)

面積:85.42m² 間取り:2LDK→3LDK ご家族:ご夫婦 + お子様1人

「自分たち好みの内装の家に住みたかったんです。内装をアレンジできると謳っている新築マンションを検討したこともありましたが、実際は制限が多くて思ったようにはできず……。もともとインテリアのことは好きで、建築の本やリノベーションの本を読んだり、いろいろなリノベーション会社をチェックしていました。アクタスへのリノベーション依頼を決めた理由は、Scandinavian Wayのキッチン。戸当たりのところに金属が入っているデザインに惹かれたんです」

そう話すKさんは、ご主人と3歳のお子さんとの3人暮らし。部屋から運河が見える築20年越えのタワーマンションの住戸をアクタスとリノベーションしました。結婚前から暮らしているという住み慣れた街で物件を探したKさん。大手建築会社が設計施工を手掛けた建物であることや、管理体制や長期修繕計画がしっかりしていること、住民同士が挨拶を交わすコミュニティにも惹かれて、購入を決めたそうです。

「ただ、なかなかいい物件に出会えず時間が過ぎてしまい、この物件の購入を決めたのは当時住んでいた賃貸の退去まであと3ヶ月という時期。室内の状態はきれいでそのままでも住めるぐらいでしたが、キッチンが奥まったところにある独立型だったので、家族と顔を合わせながら作業できる対面キッチンにしたかったんです。時間もなかったので、当初はキッチンのリフォームだけを考えていましたが、アクタスに相談しているうちにいろいろ変えたくなってしまって。予算と時間が間に合うリノベーション内容を一緒に考えてもらいました」

フルリノベーションの場合は、既存の間仕切り壁や内装仕上げをすべて撤去して空間をつくっていきますが、既存を活かしながらの部分リノベーションは「どこまで残すのか」「どこまで変えるのか」の細かいジャッジが必要になります。入居希望日までがタイトなスケジュールだったこともあり、Kさんはアクタスと密に連絡を取り合い、リノベーション内容を素早く決定。オープンな対面キッチンにすることのほか、個室をもうひとつつくること、洗面室・浴室・トイレの設備内装の刷新、居室の内装仕上げの一部を変更することにしました。

「絶対に諦めたくなかったのが、キッチンの戸当たりを真鍮にすることでした。それに合わせて手掛けをウォールナットにすることを決めて、面材の塗装色は天板と揃えてライトグレーに。天板はコストを抑えるために人工大理石にしました。横から見た時のこの天板の薄さが、特に気に入っています。Slow styleのキッチンも好きだったのですが、夫は和のスタイルが好きで、私も和食器集めが趣味。今後年齢を重ねた時の自分たちの暮らしに馴染むスタイルを考えた時、Scandinavian Wayのほうが合っていると思ったんです」

リビングダイニングに置く家具のスペースも配慮しつつ、キッチンのサイズは幅2400ミリ、奥行きは900ミリとたっぷり取り、ダイニング側にはKさんがコレクションしているアンティークの和食器が箱ごと収納できるようにしました。キッチンとお揃いのデザインの背面収納は、ゴミ箱も収納できるように計画。背面収納の引き出しは幅広で深すぎないサイズにして、大きさが異なる器たちを重ね過ぎずにしまえるようにしています。背面収納側の壁はタイル風のクロスで仕上げて、コストダウンを図りました。

「LDKは床も貼り替えています。以前の床はツヤツヤしていて、もっとナチュラルなものにしたかったんです。リビングダイニングの天井に色を入れたのは夫のリクエスト。でも色の選定は私にお任せで(笑)。いろんなインテリア事例を見て、目に留まったのがSOLSOを運営する造園家の齊藤太一さんの自邸でした。レンガ色の壁にグリーンがとても映えていて、私もグリーンを飾るのが好きなので、いいかも!と。近い色合いのクロスを探して取り入れました。赤系の色味を天井に持ってくるのは不安もありましたが、空間にメリハリもついてとても良かったです。LDKのブラインドも、天井に合わせてアクタスから色を提案してもらいました」

K邸の床の構造は、躯体のコンクリートスラブの上に直に床仕上げがされている直床構造でした。コンクリートスラブと床仕上げの間に配管などが通るスペースがある二重床構造と違い、直床構造は配管のルート変更が制限されます。二重床構造に変えることもできますが工事が大掛かりになり、床の高さが上がる分、天井高さが低くなることに。天井仕上げを撤去して天井高さを上げる手法もありますが、高層階にあるK邸は天井にスプリンクラーが設置されていたため、天井を解体するとスプリンクラー工事も発生します。そのため、今回はコストと工期を優先して直床構造のまま、移動したキッチンの配管を引き直した部分だけ床を上げて対応。質感と表情のよい直床対応のオークフローリングで仕上げ直しました。

「独立型キッチンがあった場所は、私の部屋にしました。今は子ども部屋で子どもと一緒に寝ていますが、もともと家族3人それぞれに個室が欲しいと思っていたんです。新しいキッチンへ配管を引き直してできた床の段差は、そこにマットレスを敷いてベッドのようにする予定です。子ども部屋のクロスは私の好みで選びましたが、将来子どもが大きくなって変えたいと言った時は、貼り直せばいいやと思っています」

子ども部屋とご主人の部屋は、既存の間取りと収納はそのまま、壁の一面だけアクセントクロスを貼って印象を一新しました。Kさんの部屋と子ども部屋は、テクスチャーのあるものや柄ものがお好きなKさんのご趣味に考慮しつつ、長く飽きが来なそうなシンプルな表情のクロスを提案。ご主人の部屋には、Kさんが探し出したご主人のお好きなモチーフのクロスを使いました。

「洗面室も綺麗な状態ではあったのですが、洗面台のデザインが竣工当時のままで古さを感じたので、キッチンとデザインを揃えて作り直しました。床の仕上げは、織物のように編み込まれたベルギー製のビニルシート。裸足になることが多い場所なので、足裏が冷たくないものをリクエストして、アクタスが提案してくれたものでした。和のものが好きな夫も、『旅館みたい』と言って喜んでいました」

柄クロスが貼られていた廊下は無地の白いクロスに貼り替え、玄関は収納扉を耐久性の高いシートで仕上げ直しました。把手は交換することも検討しましたが、「よくよく見たら悪くないなって」(Kさん)と既存のものを活かしています。トイレは設備機器を交換し、塗り壁のようなテクスチャーを持つ黄色系のクロスで明るい雰囲気に。廊下にあった収納は中ががらんどうで使いにくかったため、枕棚とハンガーパイプを取り付けています。

「家具は結婚前から使っていたものが多くて、アンティークのチェアやガラスキャビネット、ナチュラル系インテリアブランドのものなど、どこかのブランドで統一するのではなく、ミックスして使っています。テレビボードは下部に真鍮があしらわれていて、キッチンとリンクさせています。リビングのひとり掛けのソファは、天井の色が決まった後、オレンジ色のファブリックが空間に似合いそうだなと思って購入しました。SHOEMAKER スツールもお揃いのオレンジ色に。夫はこのスツールをバルコニーに持っていって、景色を眺めながらお酒を飲んでいます。私もキッチンで、よくこのスツールに腰掛けています」

Kさんのセンスで選ばれたさまざまなテイストの家具や雑貨が並ぶ空間に、アクタスのオリジナルキッチンもひとつの家具のように馴染んでいます。「一番気に入っているのは、やっぱりこのキッチンですね」と話すKさん。タイトなスケジュールと限られた予算の中、優先することとしないことをしっかりと見極め、「叶えたいこと」を諦めない家づくりをしたKさん。K邸のように元々の空間を活かしながら、どうしても変えたい部分だけをリノベーションして、その後必要が出たら追加のリノベーションをしていく。そんな家づくりも、無理をせずに心地のいい家を手に入れる賢い方法ではないでしょうか。

photo:Hirotaka Hashimoto
text:Kanako Satoh