Case Study 事例紹介

地域の人々の交流を育み守る“まちなかサードプレイス”

草加の蔵(埼玉県草加市)

面積:約72㎡ 間取り:-- 用途:集会所

埼玉県草加市の住宅地に建つ古い土蔵造りの蔵。建築されたのは江戸時代だといい、築年数は150年以上。この地域では江戸時代、晒の製造が盛んで、その倉庫として建てられたものだったそう。そんな歴史ある蔵を、「地域の人々が集まるコミュニティスペース」としてリノベーションしたのはオーナーのTさん。現在、建物は地域の町会に貸し出され、集会所として利用されています。

「ここは私が生まれ育った土地で、この地域に育ててもらったという恩があります。この蔵を地域に貢献する場所にしたいと考えたきっかけは、町会の活動に参加したことでした。古くからの住人と新しい住人との間に交流を生むための活動をするようになって、街づくりへの意識が高まりました。それで、ここを地域のコミュニティスペースとして、災害非常時には地域のみなさんの助けになるような場として使えないかと考えたんです」

「壊すという考えはありませんでしたが、さすがに老朽化が進んでおり、このままにしていては近隣に迷惑をかけてしまう可能性があると思ったんです。さまざまな専門家や友人知人に相談して活用方法を考えました。そんな折に、アクタスがリノベーションしていることを知ったんです。仕事で定期的に新宿に行く機会があり、その後アクタス新宿本店に立ち寄るのが好きだったんです。それで、アクタスに相談してみようとコンタクトを取りました」

「地域の人々のためにこの蔵を使いたい」というTさんの想いに共感したアクタスが提案したのは、“まちなかサードプレイス”というコンセプト。地域住人に開かれた場所としての集会所を提案しました。地域住人は高齢化が進んでいるそうですが、若い世代の住人も暮らしています。そうした若い世代も積極的に利用しやすい空間にすることで、昔からの住人と新しい住人、そして多世代が交流する場となることを目指しました。

「リノベーションの相談中は集会所としての利用を町会に交渉していたタイミングで、使い方がまだ最終決定されていませんでした。なので住居使用のプランとサードプレイス使用のプラン両方を同時に提案してくださって、その対応力にアクタスの経験値の高さを感じました」

集会所利用を検討するにあたり、あらかじめ専門業者に依頼して建物の耐震診断を行っていたTさん。そのデータを利用しながら、アクタスもインスペクション(※)を実施。さらに、寺社仏閣など古建築に精通した設計事務所とタッグを組み、集会所としての利用と災害非常時の避難場所として、必要な防火性能や耐荷重の確保、耐震補強を行いました。漆喰の壁面は老朽化していましたが、当時でも希少だったであろう太く立派な梁や柱は割れ一つないという質の良さ。梁や開口部にブレースを入れて補強を行い、耐震性能は建築基準法の耐震性能の約1.3倍を確保しています。

「床は基礎から打ち直して断熱してもらいました。冬の寒さ対策として、床暖房も入れています。また、災害時には緊急避難場所として使ってもらうことを想定し、都市ガスが止まっても大丈夫なように、ガスはプロパンガスにしています」

(※「インスペクション」住宅の設計・施工に詳しい建築士などの専門家が、第三者的な立場から住宅の劣化状況、欠陥の有無などの調査を行い、欠陥の有無や補修すべき箇所、その必要度などを客観的に検査すること)

損傷がひどかった外壁は、既存の漆喰壁をすべて解体し、下地からやり直して下見板を貼り付けました。漆喰壁はいま再現しようとすると昔と違ってコストがかさむため、同様に下地からやり直し、塗装して往時の意匠を再現。また、蔵には国産の無垢材や石材が多数保存されており、これらの建材も用いながらリノベーションを行いました。

「ウッドデッキはこの蔵に残っていた木材で作っていただきました。一緒に保存されていた石材や手水鉢なども、今回のリノベーションで使っていただきました。ウッドデッキのウッドフェンスもここにあった材料から作られています」

現在は集会所として利用されていますが、将来、住宅としての使用に変わっても対応できるよう、2カ所あるトイレのうち一方は浴室に変更できる形にプランニング。キッチンは、集会所としても住宅としても使いやすいようにアイランド型+壁付型で造作しました。玄関を入った先にある受付室は、ウォークインクローゼットにも転用できます。

「もし集会所として利用されなくなったら、ファミリー向けの賃貸住宅にしてもいいし、お店やオフィスなどにすることもできます。でも私が一番望むのはやはり、地域のみなさんに使ってもらえる場であり続けること。アクタスの“まちなかサードプレイス”という提案には、本当に感動しました。この場所が、地域のみなさんの幸福に寄与する場所になることを願っています」

text:Kanako Satoh