カウチ付きのイタリア製ソファ、セルジュ・ムーユのウォールランプ、ポール・ケアホルムのイージーチェア、アルネ・ヤコブセンのセブンチェアとダイニングテーブル…。デザインコンシャスなこの家の住まい手は、夫婦ともにアクタスの社員であるSさんご夫妻。横浜市の高台に建つ築34年の低層マンションの一戸をアクタスとリノベーションしました。
「僕たち夫婦は引っ越し魔で、僕の独身時代から通算すると、この家は8軒目。メゾネットのデザイナーズ物件に住んだり、リノベーション物件をカスタマイズして住んだり。面白いと思う家があったら住んでみたいから、ずっと賃貸派でした。たまたま仕事でこのあたりに通う機会が出来て、結婚前に二人で住んでいた神戸の六甲に雰囲気が似ていていいな、と思っていたんです。物件探しが趣味のようになっていたこともあって、このエリアの物件情報を見てみたら、見つけたのがこの家。廊下の途中に階段がある間取りに面白さを感じたのと、バルコニーからの眺めが気に入ったんです」(夫)
賃貸派だったものの、「家具だけでなく、いつかは内装も自分の好きなようにやってみたい」と思っていたと言う夫は、実はアクタスのリノベーション事業の担当者。お客様にリノベーションを提案する立場として、“空間と家具の調和”をコンセプトとしているアクタスのリノベーションを、自身の住まいで実践してみたいという思いもあったそう。
「今までは、家に家具と暮らしを合わせてきましたが、“家具と暮らしに家を合わせる”という住み方をしてみたい、と思ったんです。今回、新しく買った家具はベッドとブラケットライトぐらいで、ほかの家具はずっと持ち続けているものばかり。これまでの住み替えも、どんなに面白い物件でも、“持っている家具が置けること”が絶対条件。この家を見つけた時も、すぐに空間のサイズや搬入経路を確認して、手持ちの家具が置けるか確認しました」(夫)
購入したマンションは壁式構造の3LDK。壁式構造は一般的に、間取り変更が難しく、望む形へリノベーションできるかどうかが肝心になります。独立型だったキッチンをオープンキッチンにすることを望んでいたSさんご夫妻は、レンジフードの排気ダクトのルートをチェックして、キッチンを移動できることを確認。リフォームが施されずに販売されていた物件で、給排水管の交換や断熱のやり直しも必要な状態でしたが、その分手頃な価格だったこと、マンションの管理や修繕計画がしっかりしていたことから、購入を決意。夫は、リノベーション事業担当として得た知識が決断の後押しになったと言います。
「キッチンに立ったときに外を見れるようにしたかったんです。以前キッチンだった場所はパントリーにして、洗濯機もここに置いています。そのぶん洗面室を広くして、掃除用品や寝間着などをしまう収納をつくりました。洗面室やパントリー、クローゼットなどの造作収納は、しまうものから割り出したサイズで計画しました。パントリーのキャビネットは、軽井沢にある北欧ビンテージのお店で買ったもの。どこに置くか悩んだのですが、ここに置けそうだったので、このキャビネットに合わせて棚や吊戸を作ったんです。背面に貼ったタイルは、トレンド感よりも飽きがこないかどうかで決めました」(妻)
プランニングと素材やカラーの選定を担当したのは妻。LDKは、後々家具を変えたときにも合わせやすい空間にするため、壁はプレーンな白の塗装仕上げに。アクセントとして、天井の一部は木製天井に、床はヘリンボーンフローリングにしました。このフローリングはアクタスのオリジナルで、ヘリンボーンには珍しい板幅150ミリの幅広仕様。木目が美しく見える幅と長さを熟考して開発したもので、「幅が細いとクラシカルな印象ですが、幅広だとモダンに見えます」と夫。
「持っている家具は北欧系のものが多いので、北欧テイストを空間に表現した『Scandinavian Way』を選びました。まず最初に決めたのは、空間のテーマ。私たちは“泊まりたい宿”から旅先を決めるくらい、宿という空間が好きなんです。なのでテーマは“お宿”にしました。バイオエタノール暖炉を採用したのも、ある宿に泊まった時にデッキで焚き火ができて、直火が見れる空間って宿っぽいなと思って。宿をイメージさせる要素として、カーペットや暗い色を取り入れて、断熱も兼ねて木枠の内窓も採用しました」(妻)
カラーリングは、まずどの部分に色を取り入れるかを決めて、その後に使う色と素材を決めていったそう。Pacific Furniture Serviceのキャビネットが置かれた玄関と廊下は、壁は緑がかったダークグレーで塗装、床はグレーのウールカーペットを敷き詰めました。寝室はヘッドボード側をネイビーで塗装。トイレもグレーのタイルと壁で仕上げ、LDK以外の空間を暗めの内装にすることで、廊下の階段を降りた先に広がるLDKの明るさと開放感が引き立つ、メリハリのある空間に仕上げました。
「宿では暗い色が多用されていますし、もし思っていたイメージと違ったら塗り替えればいいと思って。照明も、全体を明るくするのではなく、天井は最低限の照明ですっきりさせて、ブラケットライトを多用しました。暗いと感じたら、照明を足せばいいですからね。寝室からLDKに出る部分には明かりの向きを変えられるLEDダウンライトで、壁に掛けたアートを照らせるようにしました。これも“お宿”的演出です」(夫)
「家具は変わらないのに、背景になる空間が変わると、新鮮に感じます。世の中の家づくりの大半は、家をつくって、それから家具を考えて…という段取りですが、僕らはどんな家具を置くかがはっきりしていたから、“その空間でどう暮らすのか”のイメージがしやすかったし、空間づくりも進めやすかった。せっかくの持ち家ですし、暮らすうちに気分が変わったら、内装も変えていきたいと思っています。引っ越し直後のバタバタが落ち着いて、最近やっと家でゆっくり過ごす時間ができてきました。ただぼうっとしていることが気持ちのいい空間になったな、と思います」(夫)
“空間と家具の調和”というアクタスのリノベーションのコンセプトを体現したS邸。長い時間を共に過ごしてきたお気に入りの家具たちと暮らす住まいは、まさに旅先で過ごす宿のように、仕事に子育てに多忙な日々を送るSさんご夫妻をリラックスさせてくれる存在のようです。
text:Kanako Satoh