「家を買うなら、自分たちの使いやすいようにリノベーションしたいと考えていました。僕たちは海外旅行に行くと、宿泊先にデザインホテルを選ぶことが多いんですが、そういった空間に滞在することで、インスピレーションや刺激を受けるのが楽しみなんです。リノベーションで目指していたのは、そんな空間でした」
東京の湾岸エリアにある築18年の中古マンションを購入し、リノベーションしたUさんご夫妻。住宅購入を前提に、同エリアにある賃貸に数年間暮らし、通勤のしやすさや生活環境の良さ、思い描くライフスタイルとの合致を実感したことから、マンション購入を決意しました。リノベーションを前提としていたUさんご夫妻は、改装費用込みで予算を組んで物件を探し、駅から近く、マンション自体の管理状態が良かったことが気に入った現在の物件を選択。内装はかなり傷んでいましたが、そのおかげで好条件な価格で購入することができたと言います。
「数社からリノベーションのプランを提案してもらった中で、僕たち夫婦の意図を一番汲み取って具現化してくれたのがアクタスでした。建築という箱をつくるというより、“ここにこのぐらいのダイニングテーブルを置くため”、“この家具を活かすためにどう配置するか”という設計アプローチ。僕たちは家具やインテリアが好きなので、その視点がうれしかったし、そういった空間設計の仕方もあるのかと、とても新鮮に感じました」
フリマサイトで購入したという無垢材のダイニングテーブルや、Uさん自らペイントした窓辺の一人掛けチェア、量販店で購入したという毛皮の敷物、各所に飾られたアート、イームズのチェアなど、使われている家具のほとんどは以前からお持ちだったもの。そんなUさんご夫妻のセンスが映える空間とするために、壁や床の意匠は極力シンプルに、かつ上質な素材感でまとめました。木目が透けて見える薄いホワイト色で塗装された無垢フローリングは、アクタスのオリジナル。壁は一面だけをグレーベージュの壁紙で仕上げて空間を引き締め、ナチュラルに寄りすぎない、都会的な雰囲気に仕上げました。
「キッチンは、将来子供が出来たときのことも考え、リビングダイニング全体が見渡せるペニンシュラ型の対面キッチンにしてもらいました。ガスコンロの前もガラス壁にしたので、死角がないのがいいですね」
クラシカルなデザインのモールドパネルと真鍮のツマミが付いたキッチンは、アクタスのリノベーションタイプ「SLOW STYLE」のオリジナル。天板には、材質のほとんどを石英(クォーツ)が占める「シーザーストーン」を使い、耐久性と美観を両立しました。ダイニング側には、文庫本やグラスなどが収納できる奥行き15cmのオープン棚を造作。キッチン背面は腰から上の高さを一部オープン棚にして、抜け感をつくっています。「リビングはできるだけ広く、収納は工夫して多めに」というUさんご夫妻のリクエストと暮らし方に考慮して、収納は極力壁面を活かす形で計画し、家具の配置変えやインテリアを飾る楽しみを損なわないようにしました。
洗面台の天板もキッチンと同じ「シーザーストーン」を使用。背が高いUさんご夫妻が使いやすいよう、洗面台は洗面器が高めの位置になるように造作しました。鏡の前に取り付けた棚やサイドのオープン棚には、スキンケアアイテムなど日常的に使うアイテムが収納されています。バスタイム重視派のご主人のために、浴室は既存のものより一回り広いユニットバスに入れ替え、バスタブもゆったりサイズを採用。トイレはネイビーとグレーベージュの壁紙でツートーンに仕上げ、小さなスペースにリズムを与えました。
寝室は、ダークグレーの壁紙と壁に光が落ちるダウンライトでリラックスできる空間に。ご夫婦ともにアパレル会社勤務というお仕事柄もあり、お持ちの衣類の量が多いため、寝室は最低限のサイズにして、ウォークインクローゼットは容量たっぷりの約4.5㎡を確保。L型に空間をつくり、ハンガーパイプと棚板を備え付けました。
「ウォークインクローゼットの出入り口にはドアを付けなかったんですが、これが大正解。出入りがしやすいし閉塞感もないし、使い勝手も抜群。アーチ型の出入り口は部屋のアクセントにもなっています」
玄関の下足入れも新たに造作して収納量をアップ。下足入れの扉は床から天井までの高さとし、頭上への開放感をつくりました。LDKと玄関と個室をつなぐ廊下の壁は、アメリカの西海岸を思わせる白塗装の板張り。マンション住戸の廊下は閉塞的な空間になりがちですが、縦方向に張った板とガラス入りドア越しにLDKから入る光で、明るくリラックス感のある場所になっています。
「バルコニーに面した窓辺のベンチもお気に入りのスペースですね。もともとは出窓で、どうにも使いようがない場所だったんですが、こんなくつろぎのスペースに生まれ変わりました。妻はこのベンチに腰掛けてお茶を飲み、僕は隣の椅子に腰掛けて読書しながら音楽を聴いて過ごしています」
自分たちにとって心地いいと思える空間や場所、ものの見つけ方がとてもお上手なUさんご夫妻。現在は、趣味である音楽鑑賞や映画鑑賞を楽しむためのAV機器を収めるラックを吟味中だと言います。「家は、暮らしていくうちに“ここはこうしたいな”という箇所が出てくるものだと思うので」と話すUさんご夫妻。そんなお二人の考えを形にしたこの住まいからインスピレーションや刺激を受けながら、暮らしをつくり続けていくのでしょう。
text:Kanako Satoh